FanFic 17⚔️
狂騒の白に穏やかな暮らしを
20211212
以下本文
ハロウィンパロ#4
4話
引き続きウォーレンスとミコトとポロン、追加でパーンを狼人間として登場させております。白パと赤パのどちらを暴走状態にするか迷ったけどこうなりました。狼人間の解釈は完全に個人的な捏造で、途中にある肉の料理も架空物です。似たようなものはあると思いますが関係ありません。狼のお腹に石を詰めたくて結果パーンを苦しめてしまった、ごめんよ。
ハロウィンパロディにつきアニメ脚本の原型はカケラもあるかわからないくらいですので了承の上お読みください。
また真宝ではなく魔法を行使しておりその設定は個人解釈によるものです。
なお狼に出会っても立ち向かわないでください……。
何かが暴れているのだろうか。周囲に散らせておいた私達の蝙蝠も警戒しているし、実際自身の耳で分かる程の、ぶつかるような音がする。木々がガサガサと不自然に揺れるので、辺りの木に無差別に衝突しているようだ。
俺と姫は木の実やキノコなどの採集で結界の外へ出ていた。
「……こっちにきてる……?」
何か、は凄まじい勢いで近付いている。
「っ、ミコト様ッ下がって……!」
「ウウウウァアアッ、ぐ、アアッ!!」
唸り声をあげながらこちらへ駆けているその正体は、毛の白い狼。
「ッッう、!! がはッ、ぐ……ぇ……」
魔法が間に合わなくて、咄嗟に蹴り飛ばしてしまった。腹部を強く押してしまったからであろうが、その狼──いや、その亜人は、倒れ込んでもがき苦しんでいる。そして、爪が鋭く露出した手で自身の胴を乱暴に掻き毟る。
「っ、う……ッお、え゛…………ぁ……」
彼が何かを吐き出した。魔石、だろうか。吐き出された塊は僅かに発光して落ちている。体を掻いていたのは、あれが体内にあるのが不快だったのだ。
ふらふらと、彼はゆっくり立ち上がる。認識しているのかいないのか、焦点の合わない瞳のままこちらを向いて、彼の口が開かれる。
「ァ……は……、め、し、……」
飯。
それだけを発してばたり、彼は再び倒れ込んでしまった。恐る恐る近付いてみるが、やはり気絶しているらしく反応はない。
「んん……?」
白かったはずの髪が、赤茶色に変わっていく。同時に顔まわりの肌が露出して、先までほとんど獣寄りだった見た目は人里の亜人ほどになった。彼が狼系の亜人であれば、噂に聞く怪物の話が指す事柄はこれであろうか。
「大丈夫かな……。ウォーレンス、屋敷まで運んであげられる?」
「承知しました」
魔石も拾っておこう。片手で包み込めるほど小さなそれをハンカチで包み、上着のポケットにしまう。
彼を慎重に抱え上げて、早々と引き上げる。
目を閉じたまま、件の亜人はじっとりと汗を浮かべ、短い赤茶色を湿らせている。悪夢でも見ているのだろうかと、心配そうに姫が彼の顔を覗き込む。
「っ、はぁ、っ……!!!」
「!!!」
ごっ。鈍い音を立てて、起き上がりつつ悶える者と、しゃがみ込み悶える者。
「みっ、ミコト様!」
大丈夫ですかと膝をついて声をかけてみると、痛みで濁った声が平気、と返事をした。その表情は引き攣り、涙を浮かべ、患部である額を両手で覆っている。
「っい゛……あ…………?」
仕切り直して立ち上がった姫が、もうひとりの被害者を心配して声をかける。状況を飲み込めていない彼は青い目をぱちぱちと瞬き、そしてかろうじて、誰、とだけ呟いた。彼が亜人であることはもう分かっているので、こちらも同じく亜人であることを明かす。ポロンが横から、はつらつと手を挙げて自己紹介をした。彼は村人に家を与えられ、村で農作に協力して暮らすようになっていた。時折こちらに遊びに来る。
「私はミコト、こっちはウォーレンス!」
貴方を運んだのだと姫が自慢げに私を紹介するが、それを聞かされる目覚めたての彼は記憶が混濁しているのか、何の事であるか分からないという顔で首を傾げてしまう。森の中を暴れていた事、魔石を吐き出した事。それを伝えると彼は唸って、やや気まずそうに目を泳がせた。
「そうか………あー……。俺はパーン。その件については助かった……すまないな」
「体調はどう?」
「ああ……問題ない」
姫は、起き抜けで悪いのだけれどと説明を求め、保管していた魔石を木箱から取り出して見せる。
「うわ、持ってたのかよ」
疎ましげに一変した表情で、あまり近づけないでくれよと、きもち後ろ側へ退いてしまう。
彼は所謂、狼人間と呼ばれる者。満月の夜は凶暴な狼に変貌するという噂であるが、彼と遭遇した昨日は月も出ていない昼間であった。
「あー、ちなみに満月の力がどうとかは関係ない、普通に出歩くしな。原因はその石だ」
森奥に巣穴を作って棲みついていたら、近くの集落の人間達に丸焼きにした猪肉を与えられたという。正確に言うと巣穴の入り口に置いてあったそうで対話したわけではないようだが。肉は葉や木の実で装飾がされ香りも良く、そしてその腹にはひとつの魔石が詰められていたそうである。それに気がつかないままに食べてしまったのだという話であった。
「集落で家畜になってた毛の少ない猪を1頭貰ったのがキたんだろうなあ」
薪じゃあ礼には足らなかったかと彼はこぼしているが、かけてやる言葉が見つからない私達は互いをちらちらと見やることしかできない。おそらくパーンはあまり人間とは関わらずに過ごしてきたのではないだろうか。話にあった葉や木の実というのは、香り付けに用いたあとそのまま装飾として利用したものであり、おそらく花のリースなども添えられていたのではないだろうか。その文化は亜人種を祀るもので、自分も以前いた村で頂いた事がある。腹の中に石を詰めるのは民の満腹改め豊作を願うもので、これを知っている人里の亜人は予め切り開き除いてから肉を食べるか、含んでしまってもすぐに出せば良いのだが……狼人間と魔石は相性が悪いのだろう、口内で触れるだけで彼を苦しめてしまったようだ。それは集落の目的ではなかったはずである。
魔石の魔力に刺激を受け、興奮状態となって体のコントロールができず、あのように獣に近い見た目で暴れ回ってしまったのだ。魔石が満月の話に歪曲したのは、光の具合が似ているからと比喩として月を用いたのか、それとも誰かが変貌の様を見たその日が偶然満月であったか。
「またねーポロン!」
あの後、パーンも腹を空かせていたので皆で食事をし、ポロンを送り届けるついでに村人と少し交流をしてから帰ることにした。
「あのっ、ウォーレンスさん」
幼子と話をしている姫を遠目に見ながらぼうっと立っていると、そわそわとした様子の村人がやってきた。
「お花が、綺麗に咲いたので、その」
バッと突き出したその手には数本の花が握られていた。感謝を伝え、それらを受け取る。持ち帰って飾らせて頂きますと微笑んでみせると、彼は顔の赤らみを増しながらそそくさと去っていった。
「んふふー、人気者だねウォーレンス」
戻ってきた姫はなんだか嬉しそうに笑う。
村の人間には、姫と同族の亜人だということは明かしてあるが、吸血鬼のことは伏せている。隠していることに罪悪感はあるが、正直、まだ怖いのだ。
「なんかあれだな」
先の者が去っていったほうと、受け取った花束を見ながら、パーンが口を開く。
「随分と外面が良いんだな。吸血鬼的に都合が良いのか?」
「……だったら、何だと言うんだ」
つい、威嚇するような低い声でそう問うてしまう。もはやその外面の欠片もないだろう。
「うぇっ!? いや俺達に対してとはかなり違うからちょっと気になっただけで、卑しめたつもりはねえ」
「……」
「気を悪くさせたな、すまん」
「……構わん。……吸血鬼としての性質みたいなものだ……と思う。できるだけ友好的であろうとしてしまう」
好印象であるほうが、いざ血が欲しいという時に頼んでも、貰える可能性は高いものである。もちろんここの村人から血液を摂ろうと思っているわけではないのだが、染み付いた癖というものがあるのだ。存在の近い亜人相手のほうが、気を緩みやすいのもあると思う。
ふうんと相槌を打つ彼に、不快なら改めると言うと、そんな必要はないと彼は柔らかく笑む。
「あ、でもあんた、ミコトには畏まってるよな」
「ミコト様は種族の姫君だ。……国は崩壊してしまったが……」
「……へえ………」
#3へ
#5へ
0コメント