FanFic 14⚔️
葡萄色のなかで一緒に暮らそう
20211020
以下本文
ハロウィンパロ#1
吸血鬼ウォーレンスと蝙蝠姫ミコト。
ハロウィンパロディにつきアニメ脚本の原型はカケラもあるかわからないくらいですので了承の上お読みください。
また真宝ではなく魔法を行使しておりその設定は個人解釈によるものです。
差別・暴力などを助長する目的はございません。
ストーリーの都合上、所謂亜人と呼ばれる存在に対する差別が目立って見えるかもしれません。またそれに応じて人間への感情が厳しいと感じるかもしれません。それを念頭にお願いいたします。
「っはあ、ぁ、く……ッ、は」
くそ、ただでさえ貧血だというのに、出血が多い。森に入ったから奴らは撒いたが……獣が多い、このままでは今度は獣達に食い殺されかねない。
俺は吸血鬼と呼ばれる種族。鬼、と人間達は名付けているが正確には蝙蝠だ。蝙蝠族と呼ばれる亜人種、そしてその蝙蝠全体のおよそ3%の希少種が俺のような吸血蝙蝠である。じゅうぶんに血を採ればその体は頭蓋骨を砕くパワーをもち、傷はたちまち治っていく。吸血鬼が最強だ不死身だとうたわれる所以だろう。しかし血液の採取は困難を極め、人間との対話で解決すれば良いが、それはなかなか厳しいらしい。犬はだめだ。すぐに吠えて周りに気づかれてしまう。野生の動物は対峙した時点で敵視されてしまい危険だし、群れる種族はなおさら危ない。人間に飼われた馬や牛などが理想であるのだが……。もしくは、特殊な食事をもとより理解できる亜人にでも出会う事ができれば──。
「……なんだ、この辺りは……?」
結界のようなものがある。さっきまでしつこく追ってきた熊が距離をとってこちらの様子を伺っている。どこかを中心としてドーム状になっているようだが、この先に誰かいるのだろうか。なぜだか俺は結界に近づけるらしい。
「……中に、入った、のか」
熊がしぶしぶと去っていく。
「……なんだかわからないが、とにかく、これで……休めるんだな……」
知らない土地ではあるが、獣が近づかないのならひとまず安心と言えよう。結界の者には勝手な侵入を申し訳なく思うが、しばらく休ませてもらうことにする。
俺は人間に追われていた。吸血鬼を危険と判断する者達が集団になって襲うのだ。ひとりでは貧弱で意志の弱い彼らは、集団となると途端に強く横暴になる。それでもこんにちまで生き延びたのは、とある村に匿われていたからだった。村の者は吸血鬼の存在を神同等におそれていた。彼らは血液や寝床の提供をし、その代わりに俺は畑を荒らす害獣の駆除や力仕事などを手伝って、不便なく長いこと暮らしていた。たびたび噂の調査として訪れる部外者はいたが、村の者達は俺の身を隠してやり過ごしてきた。それがある日、痺れを切らした人間達に村ごと襲われてしまったのだ。血は同意の上で貰っていたのだ。おそれられはしても、俺自身が彼らを危険に晒したことなど、一度だってなかったのに。
「………」
意識が薄れてきた。銃痕も背中に刺さった矢もそのままに走ってきたから、道中で血を失いすぎてしまった。生き血を取り込めばこんな傷はすぐにでも治すことができるが、狩りをする力ももうない。自分は随分とあの穏やかな村に甘やかされていたのだと気付かされる。
「大丈夫?」
突然、頭上から声が落とされる。意識はほぼなかったようなもので目も瞑っていたから、誰かが近づく気配になぞ全く気付かないでいた。
「……っ……!」
「結界に反応があったから来てみたけど……こんなに怪我を……獣達にやられたの? いや、矢が刺さってるから村人にでも襲われたのかしら」
彼はこちらの顔を覗き込んで、その長い髪とケープを揺らす。
「……近付くな」
「心配しないで。手当てをしなくっちゃあね」
「俺は吸血鬼だ! 襲いかかるかもしれないぞ」
大声を出してそう主張してもその者は、驚いて逃げるどころか一歩たりとも後ずさったりしないでいる。
「っ、怖くないのか」
「怖くないよ。ほら手当てを……それとも」
血が先かしらと彼は自身のその細い腕を晒し、ナイフで傷をつけてしまう。
「な……」
新鮮な血液の香りに、無意識にもごくりと喉が鳴る。彼はさあと俺の口元まで近付けて催促する。
「……ありがとう」
渇いた喉に鮮血が染み渡る。行き倒れ直前の身にはまさにオアシスだった。コップ一杯にも満たないくらいの量だけ吸って、口を離す。もういいのと心配を受けたが意識を保っていられるくらいにはなるし、完治せずともとりあえず傷口が塞がればじゅうぶんである。ポケットに入っていたハンカチで腕の傷を拭き取り、もう一度感謝を伝えた。どういたしましてと屈託なく微笑む彼に、俺の背に刺さった矢を抜いてもらうようお願いをする。出会ったばかりで血をもらっておきながら厚かましいにもほどがあるだろうが、彼は嫌がることもなく承諾して背後へ回った。
「……!」
ぐっと矢が引き抜かれた直後、患部の辺りが熱くなる。しかし痛みはむしろ引いていくようで、心地よい感覚だ。
「抜いてもらうだけでよかったが……魔法が使えるのか」
彼はまあねと照れたように笑って、三角帽子の大きなツバで顔を隠す。
魔法とは亜人族及びいかなる生物にも使える力。亜人族は生物に含まれる微量な魔力をエネルギーに変換して存在しており、亜人族のほうが魔力量が多く、魔法を行使するには人間より向いているという。しかし実際に発現するには訓練が必要で、使っている者をめったに見ない。もとより素質があり自然に使い始める者ばかりであろう。
「一体……いや、ありがとう」
痛みはもうない。吸血鬼の自然治癒よりずっと回復が速い。
「ね、私のお家でゆっくり休んでいって、すぐそこだから。もう歩ける?」
「は……ええと」
「ふふ、大丈夫。ここには結界が張ってあるの、蝙蝠族と蝙蝠たちしか中には入れない。私はあなたと同じ蝙蝠族のミコト! さあ行きましょ!」
こんなに髪色の明るい蝙蝠族もいるのだなと、前を歩く同族の者を観察する。熟れた葡萄のような色の帽子に隠れた黄髪は、腰の下ほどまで伸びて揺れている。闇に溶けるように深い色の布で身を包むのはやはり種族の性質なんだろうか。自分のケープは道中で失ってしまったが。
「……」
いや、まさか。
そういうこともあるだろうとうっかり流してしまいそうだったが、少し心当たりがあることに気が付いた。あの、と立ち止まって声をかける。そしてどうしたのと振り返るその顔を捉えて問う。
「……失礼な質問ですが……」
「ん?」
「姫、様」
「んえ!?」
「ですよね」
んんんと唸って目を泳がせたり、帽子を深く被って特徴的なそれを隠したりする様子でほぼ確信を得た。
「同族からの話で聞いただけですが……蝙蝠族でその髪色、魔法を扱えるとくれば王家の者としか思えません」
「……えへへ」
「王国が滅んだと聞いておりましたが……姫はご無事だったのですね」
蝙蝠族には、蝙蝠とともに暮らす小国があった。他種族も受け入れ、そこには人間もいたという。吸血蝙蝠の祖先はその建国時点から国を離れて隠れるように暮らしていたから、俺は蝙蝠族の国のことはよく知らないでいたが、聞いた噂によれば国外の人間達が武器を持って襲撃をしたという。……俺がいた村の時と同じ、亜人族を嫌悪する思想の者達による活動だろう。時が経つにつれ人間達の中で物を作る技術が発展し、戦争派がそれを武器に応用できるようになったからと考えるのが妥当だろうか。
「私めの愚行、大変失礼いたしました。血液のために姫の体に傷を……」
「い、いいのいいの!」
償いに跪こうとすると、姫に上体を掴まれて阻止されてしまった。そして勝手にやったのだから気にしないでほしいと困ったように笑い、それに、と言葉を続ける。
「国はなくなっちゃったけど仲間は結構生き残っているの。散らばって身を隠しているけれど、師匠に手伝ってもらいながら連絡を取っているんだ」
「はあなるほど……」
次に師匠が来たらあなたの事を話したいなあと、姫は楽しそうに呟く。
「はー! お腹空いたー!」
彼は小さな屋敷の扉を開いて、ずかずかと中へ入っていく。入り口で立ち止まっていると手招きで催促されてしまったので、失礼しますと呟いて家の中に入る。彼は微笑んで歓迎する。
「結界の外まではなかなか行けなくてさー、師匠が来てるときは外へ出てお肉もとれるんだよ!」
帽子とケープを外し、姫の身が晒される。外したものを近くのソファに置き、ぱっつと切り揃えてある前髪をはらはら整えている。その明るい髪をこうしっかり見てなんだか少し見惚れてしまうのは、やはりおこがましいことだろうか。
「……なるほど。群れのものが多いですからね、ひとりでは危険でしょう」
しみじみとした面持ちでそうなんだよと相槌を打ちながら鍋やら杓子やらを取り出している。食事を作るつもりなのだろうか、任せきりはどうも落ち着かず何か出来ることはないかと問うと、そうだなあと杓子で無意味に円を描く。それがぴたり止まり、彼はふふと微笑む。
「ね、ウォーレンス。もし、行く宛がないなら……私と一緒にここで暮らさない?」
#2へ
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