FanFic 19⚔️
混沌色の空でも側に居よう
20221021
以下本文
ハロウィンパロ#5
5話
引き続きウォーレンスとミコトとポロンとパーンを登場させております。
ハロウィンパロディにつきアニメ脚本の原型はカケラもあるかわからないくらいですので了承の上お読みください。
また真宝ではなく魔法を行使しておりその設定は個人解釈によるものです。
最終回みたいな感じですけどもしかしたら気分によっては続くかもしれないので完結にはしないでおきます。
何か声が聞こえた気がして、目を開けて起き上がる。
窓から月明かりが差し込むばかりで、夜はまだ深く鎮まっている。
「………ぅ……っ、……」
姫がうなされているようだ。彼のベッドの横まで、音を立てないようにして近寄る。うううと唸る顔が苦しそうに見えて、つい頭を撫でてしまった。
「ん……」
良かった。少し落ち着いたみたいだ。眉間の緩んだ顔に安堵してそこを離れようとする──しかし、ぽそ、と弱い声が響いて、俺はそのほうを振り返る。姫が半目に瞬きながらもこちらを見つめていた。俺が起こしてしまったことを謝罪すると、彼はううんと首を振ってこちらへ微笑みを向ける。
「……ありがと、ウォーレンス」
その言葉は先の俺の行動に対してだろうか、俺はやや気恥ずかしい心持ちになった。
「ね、紅茶飲みたくなっちゃった。入れてくれるかな?」
起き上がった姫はあどけない表情でそう言った。
フルーティで芳醇な香りがあたりに広がっている。ダイニングテーブルの椅子に彼は座って、側にあるランプの灯りをぼうっと見つめるばかりだ。静かに待つ彼に、どうぞと紅茶を差し出す。ありがとうと受け取ったその瞬間は笑顔を見せたものの、どこか暗い表情へ変わってしまった。
「夢を見たの……」
姫はぽつりそう呟く。伏せた瞳は淀んで、呼吸は少し浅くなっていく。震える彼の口から溢れるのは、動揺、悲嘆、後悔。国が襲われたその日を、彼はまだ明瞭に思い出すのだろう。
「ミコト様……」
「……ごめんね。寝よっか。紅茶ありがとうね」
ベッドへ横たえた姫の頭をひと撫でする。彼はふわり含羞んで、おやすみと目を瞑った。
*
「……随分……荒れてるな。どうしたんだ?」
「っ、パーン、ポロン……」
器は砕け、薬草は散らばってしまっている。暗い彼の表情からは涙と、憎悪が溢れている。
国を襲われて各地に散った仲間達と、姫はずっと連絡を取っていた。蝙蝠を遣って手紙のやり取りをしたり、師匠のボニーが直接向かって様子を見に行くなどしていたのだ。それが最近、返事が届かなくなったのだ。心配してそちらへ向かったボニーから報告の手紙が届いたのが、今朝である。
「っ姫──」
「姫って言わないで!!」
しゃがみ込む彼の、周囲に落ちた器の破片らが危ない。ひとまず別の場所で落ち着かせてあげたくて声をかける──しかしそれは繊細な心を逆撫でして、彼の過呼吸気味の声が叫ぶのだった。
「っ、わ、たしは、守れなかったの……。私は国を、みんなを守れなかった。姫である資格なんて、ないの…………」
「……ぁ……、み、ミコ──」
「ごめんね。……ちょっと、ひとりにして」
こちらを振り返ったかと思うと、私達を押しのけて玄関から出て行ってしまう。彼は誰とも目を合わすことなく俯いたままで、顔を覗くことは叶わなかった。陰鬱な雰囲気をもったその背中を、追ってしまうことはどうしても躊躇って、閉じられた玄関の扉を見つめる事しか出来ないでいた。後ろから名を呼ばれる。2人の窺う声に、俺を心配する必要はないとだけ返答する。
「……まあ、家ん中で待っとこうぜ」
飯でも作ってさ。こちらの肩をぽんっと叩きながらそう言った彼のほうを見る。パーンも、パーンの隣に立っているポロンも、俺や姫の気分とは真逆の表情だ。
「お前達まで待っている必要はないだろう」
「まーいいじゃねえか。腹減ったし」
な、と同意を求められたポロンが強く頷く。仕方ないとひとつ息を吐いて、何を食べたいのかをその空いた腹達に問うてやると、そうだなあと2人で考え始めた。
割れた薬草の器を回収する。薬草自体は無事に見えるから、新しいものに入れてやらなくては。空いている容器はあっただろうか。……姫は怪我をしなかっただろうか。まだ昼とはいえ、上着も無しに外へ出て寒くはないだろうか。
チキンにホウレンソウとチーズを挟んだものを、火にかけた浅い鍋に4人分並べる。チリチリと焼き目が付いていくと共に香辛料の香りが立ち始めたので、ポロンが顔を緩ませながら脚をはたはたと揺らすのだった。
「……私は……姫──彼の負担になっているだろうか」
パーンがそれを否定した。彼は隣の鍋で、ふかして柔くなったパンプキンを潰している。
「この間村の人が、ミコトさん前より楽しそうにしてるって話してたよ〜。それってウォーレンスさんのおかげだと思うよ!」
村に暮らしているポロンは屈託のなく笑ってそう話した。ね、と同意を求められたパーンが強く頷く。
「……そう、か……」
「あんま信じてねえな?」
しかしと言い訳をしようとするが、うまく言えない。自分があの人に、何を返せているのか、自信がないのだ。彼らの言う通り、このような自分でもミコト様を幸せにできているというなら、そうならば、本望に違いないけれど。
チキンのほうには蓋をして、鍋で煮立っていくパンプキンのことを2人に任せ、俺は外へ出る。
「ミコト様」
明るい色の髪を見つけて、声をかける。
「ウォーレンス……」
座り込んだまま、背を向けたまま、顔だけが少しこちらを覗いている。彼に近付いて、そっと上着をかけた。家から随分と離れて、結界を張ってあるぎりぎりくらいまで来てしまっている──結界の外へまで出るつもりは無かったようだが。
「ごめんね、あの、……えと……、ごめんなさい……」
彼は渡された上着をぎゅっと掴んで、しかし発した言葉はか細く、不安定だ。
「……、いえ、……私では、貴方の支えには、力不足なのです。だから、ミコト様には負担ばかり──」
「ち、ちがうの」
こちらへ体を向けて、まだ細い声で、あのねと口を開く。
「八つ当たり、だった、から、ウォーレンスは全然悪くないし、だから……」
彼は言葉を続ける。
「だ、から、……で、出ていかないで………」
こちらの脚の裾だけを掴むようにして、彼はそう請うた。
「……ええと……?」
「っぁ、えと……」
彼は焦った様子で手を離してしまう。俺は膝をつき、行き場に迷っている彼の手を取って目を合わせる。
「……私はまだ、貴方のそばにいてよろしいのですか」
「も、もちろん!」
下がっていた眉は力が抜けて、彼はにへらと含羞むのだった。
「……ふふ」
「えへ……んふふ」
帰りましょうと彼を立たせて、葡萄色の裾を2人翻して歩く。
#4へ
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